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息子に「それ、恥ずかしくないの?」と言われた日。

息子に「それ、恥ずかしくないの?」と言われた日。

日曜日の昼。

妻は出かけていて、家にいたのは私と20代の息子だけだった。

昼飯でも食べに行くか。

そう言って、いつもの白いTシャツにジーンズを履いた。

財布とスマホを持って、

「行くぞ。」

と声をかける。

ソファに座っていた息子が、こちらを見た。

そして、妙な顔をする。

「何だよ。」

「いや……。」

一度目をそらしたあと、またこちらを見る。

「それ、恥ずかしくないの?」

「何が?」

息子が自分の胸を指さした。

「乳首。めっちゃわかるけど。」

思わず自分の胸元を見る。

確かに、Tシャツの上から形が出ている。

でも、こんなの昔からだ。

「男なんだから別にいいだろ。」

そう答えると、

息子は少し呆れた顔をした。

「いや、今そういう感じじゃないから。」

その一言が、妙に引っかかった。

「男だから気にしない」は、もう古いらしい

車に乗ってからも、さっきの言葉が頭に残っていた。

「今そういう感じじゃない。」

どういう感じなんだ。

昼飯を食べながら聞いてみた。

「お前らって、そんなところまで気にするの?」

息子は箸を止めることもなく、

「普通に気にするよ。」

と言った。

「乳首見えてるの、嫌じゃん。」

あまりにも当たり前のことのように言う。

私が20代の頃、そんなことを気にしている男がどれくらいいただろう。

Tシャツなんて、そのまま着る。

多少透けても気にしない。

男なんだから、それでいい。

少なくとも自分は、そういう感覚でずっと生きてきた。

息子にそう話すと、

「昔は知らないけど。」

と笑った。

「今は男でもスキンケアするし、眉毛も整えるし。別に女みたいにするって話じゃなくて、身だしなみじゃない?」

なるほど。

言われてみれば、息子の洗面台には私より多くのものが並んでいる。

化粧水。

日焼け止め。

ヘアオイル。

最初は、

「男がそんなもの使うのか。」

と思っていた。

でも今では、それが特別なことでもないらしい。

時代が変われば、

「男なら気にしなくていい。」

の中身も変わる。

自分の感覚だけが、20代の頃から止まっていたのかもしれない。

息子と並んだ写真を見て、もう一度気づいた

食事のあと、買い物をして帰った。

その途中、息子が新しいスニーカーを見たいというので店に寄った。

気に入った一足を見つけ、

「ちょっと写真撮って。」

とスマホを渡された。

何枚か撮ったあと、

「せっかくだから一緒に撮ろう。」

と店員さんが声をかけてくれた。

二人で並ぶ。

家に帰ってから、その写真が送られてきた。

画面を開く。

最初に思った。

息子は今どきだな、と。

特別派手な格好ではない。

無地のTシャツにパンツ。

ごく普通だ。

でも、すっきりして見える。

その隣にいる自分を見る。

服装は、それほど変わらない。

ところが、昼に指摘されたことを思い出した途端、胸元に目がいった。

確かに目立つ。

一度気づくと、今度は自分でも気になる。

妻から言われていたら、

「細かいこと言うなよ。」

で終わっていたかもしれない。

同年代の友人なら、

「俺たちの歳で今さら。」

と笑っていたかもしれない。

でも20代の息子から、

「恥ずかしくないの?」

と言われた。

それは思った以上に効いた。

若く見られたいわけではない。

息子と同じ格好をしたいわけでもない。

ただ、

古い感覚のまま止まっている父親にはなりたくない。

そう思った。

次の日、息子に聞いてみた

翌朝。

洗面所で息子と一緒になった。

少し迷ったけれど聞いてみた。

「昨日のあれさ。」

「何?」

「胸のやつ。お前はどうしてるんだ?」

息子が笑った。

「気にしてたんじゃん。」

「うるさい。」

「インナー着ればいいじゃん。そういうの目立たなくするやつもあるよ。」

「そんなのあるのか?」

「あるよ。調べれば普通に出てくる。」

その程度のことだった。

胸元を気にするなら、Tシャツを捨てる必要もない。

厚手の服ばかり選ぶ必要もない。

体を隠すような格好をする必要もない。

中に着るものを少し工夫すればいい。

50代になって、20代の息子から身だしなみを教わるとは思わなかった。

でも、それも悪くない。

親は子どもにいろいろなことを教えてきたつもりでいる。

箸の持ち方。

挨拶。

自転車の乗り方。

車の運転。

社会人になってからは、仕事の話を聞くこともあった。

いつの間にか、教える側と教わる側が入れ替わることも増えてきた。

時代の感覚については、むしろ息子の方がよく知っている。

「男だから気にしない。」

そう言って終わらせるのは簡単だ。

でも、昔の自分の常識を守り続けるより、

「今はそうなのか。」

と一度試してみる方が面白い。

次の週末。

また白いTシャツを着た。

息子がちらっとこちらを見る。

胸元を見て、私の顔を見る。

「何だよ。」

「いや、別に。」

少し笑っている。

こちらも何も言わなかった。

ただ、玄関の鏡でもう一度自分を見てから外へ出た。

お気に入りだった白いTシャツは、何も変わっていない。

変えたのは、その中の一枚だけだった。

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