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秋の雨は、男の服装を狂わせる。

秋の雨は、男の服装を狂わせる。

朝、玄関を開けた瞬間、

「涼しい。」

思わず声が出た。

ついこの前まで、朝からうんざりするような暑さだったのに。

9月も後半。

ようやく秋が来たらしい。

今日は長袖のシャツでいけそうだ。

白いシャツにパンツを合わせ、鏡を見る。

久しぶりの長袖は、なんとなく気持ちまで引き締まる。

天気予報は曇り。

傘を持つか一瞬迷ったが、

「まあ、大丈夫だろう。」

そのまま家を出た。

このときはまだ、午後に自分がシャツの胸元を気にしながら歩くことになるとは思っていなかった。

「朝は涼しかったのに」

昼過ぎ。

取引先との打ち合わせを終えて外へ出ると、空の色が変わっていた。

さっきまで明るかったのに、遠くの空が黒い。

「降りそうだな。」

そう思った直後だった。

ポツ。

ポツポツ。

次の瞬間には、一気に雨脚が強くなった。

「うわ、マジか。」

傘はない。

駅までは歩いて10分。

近くのコンビニまで走ったが、その数分でシャツの肩や胸元はかなり濡れてしまった。

やっと店に入り、傘を買う。

鏡代わりにガラスへ映った自分を見る。

髪も少し濡れている。

シャツも濡れている。

そして何より暑い。

雨の中を走ったせいで、今度は内側から汗まで出てきた。

電車に乗って、ようやく一息つく。

ところが、座席に座って何気なく自分の胸元を見ると、

「あ……。」

濡れたシャツが肌に張りついている。

朝、家を出たときにはまったく気にならなかった胸元のラインが、思った以上にはっきりしていた。

手でシャツを少し浮かせる。

しばらくすると、また張りつく。

もう一度引っ張る。

自分でも嫌になる。

服が濡れただけなら、そのうち乾く。

でも、

気になり始めると、乾くまでずっと気になる。

これが困る。

会社へ戻れば、まだ人にも会う。

そして今日は、仕事が終わったら予定があった。

「今日、このあと飲まない?」が素直に喜べない

夕方。

シャツはだいぶ乾いていた。

ただ、一度気になった胸元は、なんとなくまだ落ち着かない。

そんなとき、同僚から声をかけられた。

「今日、このあと飲まない?」

いつもなら、

「行こう。」

と即答する。

ところが今日は一瞬、自分のシャツを見てしまった。

このままで大丈夫かな。

一度家に帰る?

でも、わざわざ着替えに戻るほどでもない。

「どうした?」

「いや、なんでもない。行こう。」

そう答えながら思った。

たかが雨だ。

たかがシャツだ。

なのに、どうしてこんなことで予定まで迷わなければならないんだろう。

朝、家を出たときには服装なんて気に入っていた。

それが突然の雨一つで、

濡れていないか。

透けていないか。

胸元は目立っていないか。

そんなことばかり考えている。

本当に欲しいのは、絶対に濡れない服ではない。

雨なんて降るときは降る。

汗だってかく。

欲しいのは、

何があっても、そのあとの予定を普通に楽しめること。

「雨に降られたから今日はやめておこう。」

そんなふうに、服のせいで一日を小さくしたくない。

秋の服装で大切なのは、晴れた朝にかっこよく見えることだけではないのかもしれない。

予定外のことが起きたあとも、困らないこと。

それも、大人の服選びの一つだと思う。

次の日、変えたのはシャツではなくインナーだった

翌朝。

昨日とよく似た天気だった。

長袖のシャツを手に取る。

昨日のことを思い出して、

「今日は別のシャツにしようかな。」

一瞬そう考えた。

でも、やめた。

悪かったのはシャツではない。

気に入って買った服だ。

雨が降るかもしれないという理由だけで、着たい服を避けるのも違う気がした。

そこで変えたのは、シャツではなく、その下だった。

汗を吸って乾きやすく、胸元もカバーできるインナーを着る。

その上から、昨日と同じような薄手のシャツを羽織った。

鏡を見る。

見た目は昨日とほとんど変わらない。

それでいい。

インナーは、目立つためのものではないのだから。

でも、突然の雨。

駅まで走った汗。

湿気で張りつくシャツ。

そんな予定外の場面で、

「着てきてよかった。」

と思える一枚。

その日の午後。

また少し空が暗くなった。

スマートフォンを見ると、雨雲が近づいている。

今度は鞄の中に折りたたみ傘もある。

昨日とは違う。

でも一番違うのは、雨が降ることをそれほど気にしていない自分だった。

もうすぐ、本格的な秋。

長袖を着る日が増え、ジャケットを羽織る日も増えてきます。

それでも突然暑くなったり、雨が降ったり。

秋の一日は、朝の予想どおりにはいきません。

だから服も、

「何を着れば失敗しないか」ではなく、「何が起きても困らないか」で選んでみる。

秋の空は変えられない。

でも、その空の下で一日をどう過ごすかは、少しの準備で変えられるのかもしれません。

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