朝、玄関を開けた瞬間、
「やっと涼しくなったな。」
と思った。
少し冷たい空気が気持ちいい。
今日は久しぶりにジャケットを羽織った。
鏡を見る。
暑さに耐えることばかり考えていた夏が終わり、服を選ぶ楽しさが戻ってきた気がする。
夏の間は、胸元が気になってインナーも選んでいた。
でも、もう必要ないだろう。
その日は何も考えず、引き出しにあった一枚を着た。
「秋だし。」
それくらいに思っていた。
上着を脱いだ瞬間、「しまった」と思った
その日は仕事で取引先へ行った。
朝は涼しかったのに、昼になると意外と暖かい。
駅から歩いているうちに、じんわり汗ばんできた。
訪問先に着くと、
「どうぞ、上着脱いでください。」
そう言われた。
「ありがとうございます。」
ジャケットを脱ぐ。
その瞬間、自分の胸元が目に入った。
「あ……。」
思っていた以上にラインが出ている。
少し汗をかいたせいで、生地も体に沿っていた。
今さら上着を着直すのも不自然だ。
そのまま打ち合わせが始まった。
相手の話を聞きながら、何度も意識が下へ向かう。
腕を組みたくなる。
資料を胸の前に置きたくなる。
話に集中したいのに、頭の片隅では別のことを考えている。
だんだん腹が立ってきた。
相手にではない。
「もう秋だから」と油断していた自分にだ。
夏なら気をつけていた。
ところが涼しくなった途端、もう平気だと思い込んだ。
季節が変わっただけで、自分の体が変わったわけではないのに。
欲しいのは「何を着ても平気」という気楽さだった
帰りの電車で、今日のことを思い返した。
別に誰かから指摘されたわけではない。
相手が見ていたかどうかもわからない。
それでも、一度気になってしまうと落ち着かなかった。
そこで気づいた。
嫌なのは、乳首が見えることだけではない。
それによって、自分の行動まで変わってしまうことだった。
上着を脱ぐのをためらう。
胸元を隠す。
相手の視線を気にする。
本当なら、そんなことに頭を使いたくない。
暑ければ脱ぐ。
仕事なら話に集中する。
休日なら好きな服を着る。
欲しいのは、それだけだった。
何かを隠すために服を選ぶのではなく、
着たあとに、そのことを忘れていられる状態。
それなら季節は関係ない。
「夏だけ対策すればいい。」
そう考えていたこと自体が、少し違っていた。
夏が終わっても、POCHILESSはしまわない
翌朝。
インナーの引き出しを開けた。
夏によく着ていたPOCHILESSが入っている。
一度は、
「しばらく出番はないかな。」
と思っていた。
でも、もう一度手に取った。
乳首浮きが気になるのは、暑い日だけではない。
上着を脱ぐ場面もある。
汗ばむ日もある。
柔らかな生地が体のラインを拾うこともある。
ならば、わざわざ夏で区切る必要はない。
その日、POCHILESSを着て仕事へ行った。
午後。
訪問先で、
「暑かったら上着、脱いでくださいね。」
と言われた。
「ありがとうございます。」
今度は何も考えずに脱いだ。
打ち合わせが終わるまで、胸元のことは一度も思い出さなかった。
帰り道になって、ようやく気づいた。
「あ、今日、気にしてなかったな。」
その感覚が一番よかった。
POCHILESSを着る目的は、毎朝その存在を実感することではないのかもしれない。
むしろ反対だ。
着ていることを忘れて、
仕事をする。
人と話す。
出かける。
好きな服を着る。
そんな一日を過ごせること。
暑さが落ち着いても、その心地よさまで衣替えする必要はない。
だから今年は、
秋もPOCHILESS.
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