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同窓会で、一番気になったのは髪の量ではなかった。

同窓会で、一番気になったのは髪の量ではなかった。

「お前、だいぶきたなあ。」

受付でいきなり頭を見られた。

「お前にだけは言われたくない。」

二人で笑った。

高校を卒業してから35年以上。

久しぶりの同窓会だった。

会場に入ると、一瞬では名前が出てこない顔もある。

太ったやつ。

白髪になったやつ。

ほとんど変わらないやつ。

逆に、名札を見ても、

「本当にこいつだったか?」

と思うほど変わったやつもいる。

男同士だから遠慮がない。

「腹出たな。」

「髪どうした。」

「老眼?」

会って10分もしないうちに、言いたい放題だった。

私も家を出る前、鏡を見ながら髪をかなり気にしていた。

少なくなった。

昔より額も広くなった。

今日は同級生に何か言われるだろうな。

そんな覚悟までしていた。

ところが、会が始まって一時間ほどすると、髪のことなんてどうでもよくなっていた。

代わりに、別のことが気になり始めた。

同じ55歳なのに、なぜこんなに違って見えるんだろう

向かいのテーブルに、昔よく一緒に遊んでいた友人がいた。

彼も55歳。

白髪交じりで、目尻には深いシワがある。

決して若く見えるわけではない。

なのに、妙にいい感じなのだ。

久しぶりに会った女性たちからも、

「○○君、素敵になったね。」

と言われている。

本人は、

「どこがだよ。老眼ひどいぞ。」

なんて笑っている。

何が違うんだろう。

服が高そうなわけでもない。

細身でもない。

髪だって、私より多いとは言い切れない。

しばらく見ていて気づいた。

シャツがきれいに体に馴染んでいる。

立ったときも座ったときも、変なところに目がいかない。

ただ、それだけだった。

そこで自分を見る。

今日のために買った薄手のシャツ。

店では似合っていると思った。

ところが椅子に座ると、胸のあたりが思った以上に目立っている。

慌てて生地を少し前に引いた。

手を離す。

また気になる。

今度は腕を組んだ。

その瞬間、急に恥ずかしくなった。

55歳の男が同窓会で何を気にしているんだ。

そう思う一方で、一度目につくと、もう忘れられない。

近くに初恋の女性までいる。

頼むから、こっちを見るな。

さっきまで、

「髪が減ったな。」

と笑われることばかり心配していたのに。

まさか乳首の方を気にすることになるとは思わなかった。

若返りたいわけじゃない。久しぶりに会うなら、今の自分で格好よくいたい

二次会へ移動するとき、例の友人と並んだ。

「お前、なんか若いな。」

思わず言った。

「どこが。お前と同い年だろ。」

「そうじゃなくて。なんかちゃんとしてる。」

「急に褒めるな。気持ち悪い。」

笑われた。

聞けば、最近少し服を気にするようになったらしい。

きっかけは娘だった。

一緒に出かけるとき、

「お父さん、それ着るの?」

と言われたのだという。

「腹立ってさ。でも鏡見たら、確かにひどかった。」

二人で笑った。

「それから?」

「別に大したことしてないよ。自分に合うサイズ着て、くたびれたものは捨てるようにしたくらい。」

少し間を置いて、

「この歳になるとさ、誰も注意してくれないだろ。」

その言葉には妙に納得した。

20代なら、寝癖さえ笑い話になる。

30代なら、多少無頓着でも仕事や子育ての忙しさで済ませられる。

でも50代になると、何も言われなくなる。

周りは黙っている。

本人だけが、

「こんなもんだろう。」

と思っている。

私はもう一度、自分の胸元を見た。

老けることが嫌なのではない。

髪が減るのも、シワが増えるのも仕方がない。

そこを必死に隠して20歳若く見せたいわけでもない。

ただ、久しぶりに会った人から、

「なんか疲れた感じになったな。」

とは思われたくない。

できれば、

「いい歳の取り方してるな。」

と思われたい。

同窓会というのは不思議だ。

普段は気にもしない「今の自分」を、昔の自分と並べて見せられる。

そして同じ年月を生きた人たちとも、否応なく並ぶ。

その夜、私が欲しいと思ったのは若さではなかった。

55歳の今を、自分なりに気持ちよく着こなしたい。

それだけだった。

次の同窓会までに、髪は増えなくてもいい

翌朝。

少し二日酔いのまま、昨日着ていたシャツをハンガーに掛けた。

やっぱり好きなシャツだった。

色もいい。

形も気に入っている。

これを着ないようにするのは違うな、と思った。

だったら、変える場所は別にある。

中に着るものを見直した。

今までは肌着なんて、汗を吸えば十分だと思っていた。

でも、上に着る服の見え方まで考えて選ぶという発想が、自分にはなかった。

胸元が目立ちにくいものに替えてみる。

数日後、同じシャツを着た。

「ああ、こっちか。」

鏡の前で思わず声が出た。

シャツを買い直す必要はなかった。

体を急に変える必要もない。

もちろん、髪も関係なかった。

ほんの少し、選ぶ場所を間違えていただけだった。

同窓会の集合写真が送られてきたのは、その日の夜だった。

大勢のおじさんとおばさんが、昔の高校生みたいな顔で笑っている。

拡大して自分を見る。

額はやっぱり広くなっていた。

でも、今度は笑えた。

まあ、これは仕方ない。

次にみんなと会うのは、何年後だろう。

その頃には、白髪ももっと増えているかもしれない。

シワだって深くなるだろう。

それでいい。

50代から先は、若さを失わない競争ではない。

変わっていく自分に合わせて、少しずつ選び直していけばいい。

次の同窓会。

髪の量は、今より減っているかもしれない。

それでも、

「俺、なかなかいい歳の取り方してるじゃん。」

集合写真を見ながら、自分でそう思えたら十分だ。

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